大変更!5つの制度を徹底解説
生前贈与のルールが65年ぶりの大改正
2023年度の税制改定で見直された贈与税のあり方や戸籍の取得方法・相続登記の変更について解説していきます

生前贈与 ①子に贈与して7年超生きなければ節税効果減
改正前 | 改正後 (2024年1月1日から) |
暦年贈与化の持ち出し期間は死め前の3年間 | 持ち戻し期間が3年から7年に変更 <持ち出し期間が3年から7年に!早めに対策を> |
現行のルールでは、歴年贈与をしていた場合、亡くなる前の3年分贈与を相続財産に加えて計算することになっています。4年以上前の生前贈与分は、毎年110万円までは非課税です | 203年度の税制改正で持ち戻しの期間が3年から7年に延長されました。生前贈与をするなら、なるべく早めに行ったほうがよくなります。なお、延長された4年分の贈与額のうち100万円は控除されます。 |
2023年度税法改正では、相続税と贈与税について抜本的な見直しが行われました。特にインパクトが大きかったのが生前贈与についてです。毎年110万までの贈与であれば非課税の『歴年贈与』という制度があります。ただし、暦年贈与であっても、相続が発生したら発生時点から3年前にさかのぼって、3年分の贈与は相続財産に加えるという制度です。この制度が、今回の改正によって7年前に延長されることになりました。つまり、亡くなる前に7年分の贈与額が課税対象になるということです。ただし、延長された4年分の合計贈与額のうち100万円は対象外(控除)となります。また、孫や子供の配偶者などの相続人ではない人は、今回の対象外です。
生前贈与 ②相続時精算課税制度に年間110万円の控除を新設
改正前 (2023年12月31日まで) | 改正後 (2024年1月1日から) |
累計2500万円までの 贈与分は贈与税非課税 (相続税は対象) | 累計2500万円まで贈与税非課税で さらに年間110万円まで 贈与税も相続税もかからない |
「還暦贈与」と「相続時精算課税制度」はどちらがお得?
相続税の対象になるかどうかがポイント
将来的に相続税の対象になるかどうかが、選択のポイントになります。相続するときの財産総額が相続税の基礎控除額以内に収まる人は、相続時精算課税制度を利用したほうがいいでしょう。元気でまだまだ長生きしそうという人は、還暦贈与がお得です。
還暦贈与の手続き
還暦贈与と認められるためには、贈与側と受け取り側の両者の合意と贈与するたびに日付や贈与内容をまとめた契約書が必要です。贈与する金額やタイミングも都度変えた方が無難です
相続時精算課税制度の手続き
贈与税の申告書、相続時精算課税選択届出書、贈与を受ける人の戸籍謄本または戸籍妙本、贈与を受けた人が18歳に達した以後の住所が分かるもの、贈与した人の住民票または戸籍の附票を期限内に税務署に提出します
2023年度の税制解析では、相続時精算課税制度についても変更がありました。相続時精算課税と60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子どもや孫に生前贈与する際、2500万円までに贈与税がかからない制度です。2500万円を超えた場合は、超過分に20%の贈与税がかかります。そして、相続が発生したとき、この制度を使って生前贈与した全額を相続財産に加えて相続税を計算するこになります。注意いたいのが、相続したいのが、相続時精算課税制度を利用すると、還暦贈与を使えなくなることです。暦年贈与は110万円までなら贈与税はかからず、贈与税の申告は不要で、2024年以降は相続発生の7年以上前の贈与は相続税の対象にはなりません。一方、相続時精算課税制度は2500万円までの贈与には贈与税がかかりませんが、少額でも申告しなければなりません。今回の改正では、相続時精算課税制度について、年間110万円まで基礎控除が新たに設けられました。この基礎控除の分については、相続税の対象外となります。
戸籍謄本 ③戸籍法の改定で書類の入手が便利に
改正前 | 改正後 (2023年度中に開始予定) |
本籍地に請求する必要があり、本籍地を変更している場合は、すべての本籍地に請求して戸籍(除籍)謄本を取得しなければならず、非常に手間が掛かる | 本人だけではなく故人の書類も入手可能 戸籍法が改正されたことにより、最寄りの役所窓口に行けば、本人だけでなく故人や他の相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製現戸籍を一括で請求・取得可能請求にはマイナンバーカードや運転免許証が必要 |
2023年に改正戸籍法施行されました。この改正で画期的とされたのは、戸籍謄本などの書類の取得が簡単になったことです。相続が発生すると、相続人全員分の戸籍謄本や戸籍抄本が必要になります。これまでは、戸籍に関する書類を取得するには、本籍地の市区町村役所に請求する必要がありました。たとえば、現住所が東京で、本籍が北海道にある場合、北海道に請求しなけばならなかったのです。これが、今回の改正で最寄りの役所で一括請求することが可能になりました。ただし、可能となったのは窓口請求のみで、郵送請求に認められていないので注意しましょう。
相続登記 ④3年以内に相続登記をしないと罰金が科せられる
改正前 | 改正後 (2024年4月1日から) <違反すると10万円以下の罰則> |
故人から不動産を相続した場合、名義変更の義務はありませんでした。 そのため名義人不明の土地が増えてしまい、再開発や公共事業の支障となっていました。 | 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務づけられました。 登記を怠れば10万円以下の過料という罰則も設けられているので、 相続したら早いうちに相続登記をしましょう |
相続の際、故人から土地や建物を相続することもあります。今までは相続になっても不動産の名義を変えることが義務ではなかったことから、名義替えをすることなく相続した家に住み続ける人がいました。故人から相続して不動産の名義変更をすることを『相続登記』といいますが、法改正により2024年4月から義務化されることになります。これにより、不動産を相続した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記しなければなりません。違反すると10万円以下の過料が科されることもあるので、不動産を相続した人は忘れないようにしましょう。

預貯金口座 ⑤マイナンバーと紐づけてすべての銀行口座を把握
改正前 | 改正後 (2024年5月19までに開始) |
故人が遺言書に全財産を記していなければ、遺族が金融機関に1つずつ照会していかなければならず、膨大な手順と時間・費用が掛かる | 最寄りの金融機関で手続きするだけでOK 1つの預金口座とマイナンバーを紐付けることで、すべての金融機関の口座と紐付けることができます。遺族は最寄りの金融機関に行くだけで、故人の全口座を把握することができ、財産の調査漏れを防ぐことができます。 |
相続が発生すると、故人の全財産を洗い出さなければなりません。遺言書を残してくれていればいいのですが、そうではない場合は金融機関ごとに1つずづ照会していくことになります。これには非常に手間と時間がかかります。しかし、2024年5月19日までに預貯金口座管理制度を使えば、こうした手間を省けるようになります。預貯金口座管理制度とは、預貯金とマイナンバーを紐づけておけば、その人のすべての預貯金口座を把握できる制度です。故人がこの制度を利用していれば、遺族は最寄りの金融機関に行って手続きをすればいいだけです。
不要土地 ⑥不要な土地を国に引き取ってもらう
改正前 | 改正後 (2023年4月27日から) |
これまでは、土地を相続すると、不要な土地だけを相続放棄することはできませんでした。そのため、相続しても不要な土地は放っておかれて近隣の迷惑になっていました。 | 土地国庫帰属制度の利用にはお金必要 自分にとって利用価値のない土地を相続した場合、国に引き渡すことができるようになりました。但し、そのためには相応の費用が掛かるうえ、引き渡す土地に建物がないことなどの厳しい条件があります。 |
土地を相続しても、遠すぎて使えなかったり、自分にとっては利用価値がなかったりして、手に余る場合があります。そのまま所有しても維持費や固定資産税はかかるので、無駄な出費が増えてしまいます。そこで、相続した土地を国に引き渡すことができる制度ができました。『相続土地国庫帰属制度』といい、自分では使わない土地を国が管理・処分してくれる制度です。ただし、無料というわけにはいきません。審査手数料のほか、10年分の土地管理費相当額の負担金を支払わなければなりません。また、建物がある土地や境界が不明な土地など、この制度を使えない土地もあります。
まとめ
大切な身内の死後、悲しい気持ちが押し寄せ、不安にさいなまれるでしょう。しかし、死後わずか数時間のうちにしなければならないこともあり、悲しみに暮れている余裕はありません。また、葬儀の手配や死亡届の提出、名義変更や相続の手続きも多く、1つずつ正確に進めていかなければなりません。近年、兄弟姉妹間の争いを筆頭に相続関係のトラブルも増加しています。故人が残された財産を円滑に相続するために生前のうちから税理士に相談しておくといいでしょう。残されたご家族の絆が、より一層深まることを祈念しております。
